短歌とTANKA

「子午線の繭」好きな5首        北原耀子

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岩に貝を投げつけて割り食(たう)ぶると古き代の生活(たつき)言ひし少女子(をとめご)

貝を岩で割って食べた古代の暮らしを語る少女清らかなエロスが印象的だ。貝殻に守られるように少女も性のめざめをまだ知らない。山人たる作者にとって異界である海のフォークロアへの憧れが眩しい。
■11ページ
もの音は樹木の耳に蔵(しま)はれて月よみの谿をのぼるさかなよ

月明りの谿を遡上する魚の営みの荘厳な美しさ。それを感知する樹木のやわらかな耳を歌人が幻視したとき、森は静まりかえって魚の遡上の神秘を目守る。森の営みのエロスを感受し、一首は幻想的なメルヘンとなった。
■16ページ
合歓(ねむ)の花しだるる下に言葉絶えひぐらしは暗く聲あはせたり

夏の夕暮れ、淡紅色の合歓の花が咲き盛る下、聴こえるひぐらしの声。カナカナカナ‥‥という合唱のただ中、人語は遠ざかり、作者は遥か時間の彼方より山が記憶する父祖たちの声をも聴いていたのではないか。
■35ページ
暗道(くらみち)のわれの歩みにまつはれる螢ありわれはいかなる河か

自分はいかなる河かとみずからに問う。暗い夜道を歩いていると蛍がまつわり、わが身が一条の河のごとく思われるのだ。己れの生の在りようをみつめる孤独者の寂寥。山棲みの鬱屈と悔しみから代表歌は生まれた。
■39ページ
銀(しろがね)の鋸の挽く夢なれとつぐみの森に雪はふり来つ

山棲みの木こりとして生きた作者の歌には「鋸」がよく出てくる。「夢なれ」という言葉に作者はどんな祈りをこめたのか。雪の清新の気につつまれ、浄化させたい穢れの意識や懊悩があったのだろ
うか。

2017年10月
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