短歌とTANKA

前登志夫の歌――樹海の入り口に

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前登志夫の歌は一行の詩である。

 かつて、そんなことを書いたが、今もなおその思いに変わりはない。さらに付け加えるならば、孤高の抒情詩人である。生涯「うたびと」という名の詩人だった。

 丈高い抒情が定型の韻律と渾然一体となって、たぐいまれな口誦の魅力と詩的高揚とをもたらしてくれる。

 読む者には豊かな想像力を喚起させ、時として激しく心を揺さぶる。そのあたりが、ほかの現代歌人との決定的なちがいであろう。

 前登志夫の歌を味わうには、何の知的はからいも背景も必要ではない。「吉野の歌人」などといった固定観念はもたないほうがいいだろう。

 どの一首をとっても平明な凡作はない。地の声の始源性を大切にしつつも、言葉としらべとが自然存在の高みへと垂直に伸びていく。一人の詩人のかなしみは、同時に存在のかなしみでもある。

 おざなりの解説などやめておこう。安易な観賞はかえって自らの非力を問われかねない。そんな畏怖すら感じられる。一首、一首を口ずさみながら、そこに詩的カタルシスを強く覚える歌を取り出してみるのがいいだろう。しみじみと心に深くしみてくる歌だ。

 言葉のみの意味とか内容、風土や民俗、古典への知識だけでは語り尽くせぬ何かがある。聖なるもののけどもの世界と向き合う孤独。

 沈黙すべきではないかという思いがつねに頭を鳥影のようによぎっていく。

 

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