炎の魚 田中教子
炎より生(あ)れし金魚を泳がせるほそき水ゆく我の夏帯
天漢のはずれのくらき星にして昴、古典のなかにうるはし
蝋燭の炎のうへに手をかざしそこに生まるる風を拾へり
人魂の青きを点し夜のふけの厨にひとり立つはなにもの
書庫のなか探してをれば頭上より「ここ」といふ声降りてきたれり
東路を歌の解釈しつつゆく雲ありドクター・ヘイズとふたり
恥かかぬやうにこっそつり花束を誰とも言はず渡してかへる
ひきこもりの青年我に救はれて山の上空すこしあかるむ
我が視界切り刻まれてある昼のやさしきかもよ大和国原
いつか我は鳥の血族 はらはらと視界の端をこぼれる木の葉
エコーの神とよびたき医師にいまいちど命救はれ年の瀬となる
歯車のかたちに閃輝暗点の見えつつ学舎の廊下歩めり
太りすぎを気にするやうにと青菜のみ我に与へて去りゆきし人
今度あつたらどついてやるわと思ひしに姿見えなくなりたる兄よ
幽冥のかなたに花の咲く夜を痛みに耐えて歌をうたひぬ