盥 喜多 弘樹
腕伸ばし天の河原の水すくふ長くさびしき柄杓なりけり
いきほひて川瀬鳴るなり唸るなり吉野の鮎を突きし銛(ヤス)はや
青葉陰いよよ深しも昼寝せる不動明王の唇(くち)朱かりき
いたましき地獄図われの腑にあれば血の海火の山舌を抜く鬼
回れまはれ地球も独楽もしよせん一人盥に浸り夕づつ仰ぐ
まどひぬるその形象の道はるか乳房の始源つね泉なり
秋たてる日にくさぐさの歌そよぎそよぎやまずも女郎花手折る
反戦歌雄々しくうたへこの国の山河草木みほとけなれば
送られて往きし人あまたその貌のおほよそはみな赤子のごとし
のびやかに描ける墨の直線を渡れる鴉暑き夏去れ