短歌とTANKA

スイッチバック     御厨慶子

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信越線をスイッチバックする列車きのうにもどれぬ私を乗せて

直江津行きの列車田んぼをかき分けて夏の稲穂の青く波打つ

軍神の「毘」の旗揺るる春日山やしろの茶屋に佐渡の見えたり

川中島の名もなき兵のざわめきか墓標に葉擦れの音降り注ぐ

相容れぬ想ひ埋まる水底に蓮の根這ひぬ洞を抱きて

温泉宿に四日籠りて飲む男これこそ湯治と妻にうそぶく

「おばあちゃん」車内に子の声駅舎にて手を振る老女の影遠ざかる

どうしても白毫寺の句を辞世にと義父が登りし萩の階

わかり合へぬ時もありしを亡き父の望遠鏡で月を見る夫

思はず知らずつきし嘘さへ見抜かれむ観音様の千のまなこに

 

           高野山にて
生きる死ぬいや生きねばと姿見の井戸が私のさだめ占ふ

2024年4月
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