信越線をスイッチバックする列車きのうにもどれぬ私を乗せて
直江津行きの列車田んぼをかき分けて夏の稲穂の青く波打つ
軍神の「毘」の旗揺るる春日山やしろの茶屋に佐渡の見えたり
川中島の名もなき兵のざわめきか墓標に葉擦れの音降り注ぐ
相容れぬ想ひ埋まる水底に蓮の根這ひぬ洞を抱きて
温泉宿に四日籠りて飲む男これこそ湯治と妻にうそぶく
「おばあちゃん」車内に子の声駅舎にて手を振る老女の影遠ざかる
どうしても白毫寺の句を辞世にと義父が登りし萩の階
わかり合へぬ時もありしを亡き父の望遠鏡で月を見る夫
思はず知らずつきし嘘さへ見抜かれむ観音様の千のまなこに
高野山にて
生きる死ぬいや生きねばと姿見の井戸が私のさだめ占ふ