短歌とTANKA

終の札所      御厨 慶子

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いくたりの人がゆきけむ遍路道俗世の塵を拭はむとして

笠や杖終の札所に納められ千の羽もつ折鶴の添ふ

山門にかかる大草鞋は誰(た)が脱ぎし終の札所を出づれば俗世

養老の滝のマイナスイオン背に浴びて夫(つま)はベンチに大の字に寝る

焼き討ちの炎(ひ)を想はする山紅葉逃れしみ仏笑みを絶やさず

一人暮らしを娘がすると言ひ出しぬ野良猫の親子抱き合ふ夜に

アパートに出てゆきし娘(こ)の指定席リビングに空くまだポッカリと

    中谷宇吉郎雪の科学館にて
ひとつとして同じものなき結晶が生み出されをり暗号として

謎めいた暗号解かむ空からの雪の手紙をみつめ直して

一秒もけして狂はむ腕時計身内に見えぬ波忍び込む

洋梨のやうなわが身をしならせて下弦の月のポーズを決める

かくれんぼの鬼の心地に友探す伸びゆくダリアの真白き迷路

ビロードのドレスなど着て洋館に海ながめをり 過去世の夢か

癌告知うけしすぐ後母食らふ碗に一粒の飯も残さず

いつもいつも立ちはだかりし母の手が震へ続ける 青い手術着

2024年4月
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