短歌とTANKA

青年詩人          田中教子

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人間をやめたと言ひてそののちを行方知れずの青年詩人

 

 

電子辞書あずかりしまま連絡の絶えたる人の背中をさがす

 

 

年上のひとが好きよとふざけつつ黒檀の椅子きしませてゐき

 

 

なんとなく死にたいやうな背中して夜の町へと消えし青年

 

 

雄の身より女の身にかはりしクマノミの泳ぐ水槽眺めてゐたり

 

 

つややかな身を横たへてオットセイのハナコ柵より我を見てゐつ

 

 

ある友人が行方不明である。連絡は途絶え、実家の連絡先もしらない。ただあずかった電子辞書があるのみ。彼は天性の詩人である。人間をやめて妖怪になるといっていたが、妖怪というほどの脅威は感じられず、むしろ精霊のようないたずらで透明なたましいだと思えた。いつかひょっこりまた訪ねてくれることを願っている。

 

 

 

 

 

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