人間をやめたと言ひてそののちを行方知れずの青年詩人
電子辞書あずかりしまま連絡の絶えたる人の背中をさがす
年上のひとが好きよとふざけつつ黒檀の椅子きしませてゐき
なんとなく死にたいやうな背中して夜の町へと消えし青年
雄の身より女の身にかはりしクマノミの泳ぐ水槽眺めてゐたり
つややかな身を横たへてオットセイのハナコ柵より我を見てゐつ
ある友人が行方不明である。連絡は途絶え、実家の連絡先もしらない。ただあずかった電子辞書があるのみ。彼は天性の詩人である。人間をやめて妖怪になるといっていたが、妖怪というほどの脅威は感じられず、むしろ精霊のようないたずらで透明なたましいだと思えた。いつかひょっこりまた訪ねてくれることを願っている。