胎内にまどろむ吾子は透き通る貝殻骨を背中にもてり
階(きざはし)の途中に人の落とし物の白いハンカチのやうな陽だまり
落とし穴掘るが趣味の子どもにてありけれど、その砂場もうなし。
ガリレオの伝記ひろげる草の上夕陽のながい尾がたれてゐる
石像のアンティノウスよ 遠き世のローマの街に降る春の雨
讒言を運んできたるくちびるにエデンの蛇を思ふ三月
シーソーの鉄の軋みに雛鳥の声が聞こえる月の王国
一本の木が揺れている咽喉の奥 ぎざぎざと崖切り立つ上に
海上へ雲をはこんでゆく風に遠き母らの歌声ひびく