短歌とTANKA

  誰かの蛍              北原耀子

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帽深くかぶれるひとと雑居ビル階昇りゆく謀略あれよ

辛料諸島遥か雨中に烟らふと指もてなぞる尾てい骨まで

腋下より夕闇は来つ吊革にさがりて濃ゆきわれは鬱の木

帆立貝甘きを食めば仄かにも死をたまふかな夕べ浜町に

幼年のあした牛乳届けられ壜に光れり乳色たましい

リリアンをもう編むこともない半世紀生きてさ庭の柿の木も老ゆ

酔ひしわがこうべ紫陽花揺れながらあゆむほかなし此の世の岸

冥き河辿りてゆふべ灯りゐる着信メール誰かの蛍

馬酔木咲く花のかたへのポストいつの夕べのわれか投函されつ

縞馬の眸にたそがれは来てそよぐ言葉なき世の梢のさみどり

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