帽深くかぶれるひとと雑居ビル階昇りゆく謀略あれよ
辛料諸島遥か雨中に烟らふと指もてなぞる尾てい骨まで
腋下より夕闇は来つ吊革にさがりて濃ゆきわれは鬱の木
帆立貝甘きを食めば仄かにも死をたまふかな夕べ浜町に
幼年のあした牛乳届けられ壜に光れり乳色たましい
リリアンをもう編むこともない半世紀生きてさ庭の柿の木も老ゆ
酔ひしわがこうべ紫陽花揺れながらあゆむほかなし此の世の岸
冥き河辿りてゆふべ灯りゐる着信メール誰かの蛍
馬酔木咲く花のかたへのポストいつの夕べのわれか投函されつ
縞馬の眸にたそがれは来てそよぐ言葉なき世の梢のさみどり