亡き友に誘はれつつ岩路行き温泉郷に我は佇む
名も知らぬ温泉郷に行き交ひし見知らぬ顔の懐かしき人々
雑踏に友見失ひ行き惑ふ温泉町はいつまでも夕暮れ
尋ね人は泥湯にありと我に告げし前歯大きな饅頭売りの男
仄暗き泥湯の小屋を巡りては友探すわれを呼ばふ声あり
暗きより身を起こしたる影一つ母の声もて我が名を呼びぬ
闇の奥の母なる声に誰何せりはや我が母は灰にてませば
秘湯には死者も混じりて横たはる手招く妣は血のごとく赤し
われを呼ぶ妣にオマヘハニセモノダと叫ぶや戸を叩きつけ逃ぐ
山妣の赫き膚に慄きて咎数えつつ岩路駆け下る
罪ゆゑにわれを招くか山姥ははた酒一杯の見せし悪夢か