短歌とTANKA

  デュフイの海      岩尾淳子

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はすかいにプラトンを読む青年のざわっと広げてゆく夏の枝

 

電車から降りたわたしを坐らせる海にいちばん近い木の椅子

 

先週に阿倍野で観てきたデュフィの海から抜いたようなヨットだ

 

椰子の葉がそよいでいるね、そう、君を追い越してゆく風の速さよ

 

春に来たときと変わらぬ位置にある海に浮かんでいる秋のブイ

 

潮風に扉はあってきらきらと干潟のように開かれてゆく

 

沖へ吹くかわいた風は洋凧をまひるの空に泳がせている

 

夏草の野島の埼にかすみたる古歌にはなかった風車が数基

 

文語のようにからむ海風心地よく眠たい肩にきいろいカンナ

 

日に焼けてすこし汚れた酒蔵のけっこう多い浜町をゆく

 

レジ奥に猫抱いている奥さんに四合瓶をつつんでもらう

 

階段の手すりは鉄のにおいして住吉神社の大屋根のそり

 

ぶらんこがしずかな親子をゆらしおり浜につづいてゆく境内に

 

温そうなまつぼっくりの落ちているちいさな松の林を歩く

 

くちゃくちゃと茶色やみどりの海藻がまだらにかわく引き潮の浜

 

てのひらに泡ふきだして笑いあう炭酸水をひざにこぼして

 

大きめの海鳥みたいにばたばたと水上バイクはいくども跳ねる

 

どうしても上手く撮れない夕映えにカメラをむけている君の背よ

 

日没にはもう少しある海岸のハマヒルガオの群落にいる

 

肩をだし音楽かけて浜にいた耳のきれいな若い人たち

 

 

 

 

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