短歌とTANKA

桜の結婚       森垣 岳

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 ハプスブルグ家の肖像画は見ていると非常に不安な気持ちになってきます。顎がとがって受け口でお世辞にも美しいとは言えない顔立ちでこちらを見つめてきます。
 血統を守るため近親婚を繰り返した結果、生物として生き残る力が極端に衰えてしまい、多くの子宝に恵まれても生き残る子が非常に少なかったようです。たとえ、生き残ったとしても虚弱であったり遺伝病に悩まされたりしたそうです。
 では、なぜ近親婚がだめなのか。簡単に言えば、遺伝的エラーが濃縮されてしまうからです。生き物は細胞分裂を繰り返して成長していきますが、ごくまれに分裂時にエラーが発生してしまいます。
 普通であれば、子孫を残す時にそういったエラーを持っていても、両親のどちらか一方はエラーのない遺伝子を持っているのでうまく補完されてエラーのない子孫が生まれてきます。
 しかし、両親ともに同じ遺伝子の部分にエラーを持っていると、補完する材料がないのでそのまま子供に受け継がれてしまいます。これを何度も繰り返すと、遺伝子のエラーはどんどん補完されずに増えていく一方となり、最終的に生き物として生き残る力を失ってしまいます。
 植物は、そんなことが起こらないように独自の深化を遂げ、近親婚を巧みに避けて生き残っています。例えば奈良県で有名なサクラは「自家不和合性」という性質を持っています。これは、自分の花粉がどれだけ自分の雌蕊についても種子を結ばない性質です。ソメイヨシノばかり植えられているような公園のサクラには決して実がつきません。これはソメイヨシノが接ぎ木によって繁殖したクローンなので何本植えられていても、ソメイヨシノたちは全て「自分の花粉」だと思い、受精を拒みます。
 同じソメイヨシノでも近くに別の品種のサクラが植えられていると、5月ごろに小さなさくらんぼが出来ています。
 サクラだけではありません、同じバラ科の果樹であるリンゴやナシも同じように自家不和合の性質を持つので栽培する時は「受粉樹」といって花粉を採取するためだけの株が植えられています。
 そんなサクラは日本だけでなく、多くの海外にも友好の象徴として植えられています。
 オーストラリアにはカウラの日本庭園にサクラが植えられているようです。現地を見たことがないので、写真だけで予想するしかできないのですが、サクラの品種は複数ありそうな気がします。
 おそらく、日本が秋の頃、オーストラリアのサクラ達は自由な高受粉を交わして子孫を残していることでしょう。
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