デジタル空想植物園 1 森垣岳
魚の気配 森垣 岳
カワバタモロコという魚がいます。5センチ程度の魚で熱帯魚のような華やかさはありませんが、水槽で見ると時期によっては鱗を金色に反射させて非常に美しい魚です。
繁殖力も旺盛で、水槽に入れておいて環境がうまく合うと一度にたくさんの卵を産み、多少水が悪くなっていても簡単に死んでしまうことのない強い魚です。
決して弱い生き物ではないのですが、メダカやウナギのように絶滅が心配されている魚の一種です。では、なぜこんなに強いカワバタモロコが数を減らしているのかと言いますと、彼らは流水域に生息していないのが原因なのです。
ため池などの小さな池は川などの流れる水と繋がっていない場合が多く、そういう水が流れない場所を住処にしているカワバタモロコはため池の水がなくなってしまうと逃げ場を失ってたちまち全滅してしまいます。
カエルや昆虫などは水が干上がってしまっても他の場所に移動してしまえば生きながらえることができますし、ドジョウのように水から出てしまってもしばらくは生きていられる(さらに陸地に置かれた時に寝た状態にならない)場合も短い距離ならば移動することも可能ですが、カワバタモロコはそうはいきません。
ブラックバスやブルーギルなどの外来魚の影響も受けてしまいます。こういった外来種によって稚魚が食べられてしまったり、エサをとられてしまい、否応なく数を減らしてしまっています。
こんな貴重なカワバタモロコですが、実はあまりよく分布がわかっていません。道路に近い場所なら簡単に調査ができるのですが、必ずしも住処となるため池は道路沿いにあるとは限りません。
山間部の奥まったところのため池などに生息している場合、ワナを仕掛けて調査をしても確実に発見できるとは限らないことが、分布調査を困難にしています。例えば水のにごった水槽にメダカを1匹入れるとたった一匹といえど、にごった水槽からこのメダカを取りだすのは非常に困難です。
現在、注目されている技術として環境DNAを用いた調査方法があります。これは水中に含まれるDNAの量によってカワバタモロコが生息しているかを調べる方法です。魚の住む場所には体の粘膜やフンなど、魚から出た老廃物などが水中に溶け込んでいます。
この老廃物にはDNAが含まれており、池の水の中にこれが含まれているかどうかで生息の有無を確認することができます。現地で水を採取しなくてはならない手間はありますが、わざわざ罠を仕掛けて調査する手間に比べると大いに楽ちんです。現在の段階では、生息の有無しかわかりませんが、技術が向上すればため池にどれくらいの数が生息するのかもわかるようになります。