短歌とTANKA

姉さん   岩尾淳子

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姉さん   岩尾淳子

 

きさらぎの人のうたげに集いゆくアンデルセンを道連れにして

花束をかしゃかしゃ抱いて青年は氷河のように頬をさらせり

すこしずつ日が長くなる夕暮れの声のきれいな僧のゆく道

お向かいの家は売られてしまいたり黄色い花に降る陽のひかり

生き方を詠えとせまる言葉から逃げてあおげる春の星座を

さいわいはちいさくあれば飯粒がお寿司屋さんにつやめいている

先だちし姉を日増しに慕いたる孝標の女の記憶のかおり

太秦のお寺に籠もり夜もすがら物語せし声もほろびて

歳月はゆきつもどりつかなしみを父の葦辺にはこんできたり

享年二十一歳わかくして自死せし叔母の死後のながさよ

梅林に喰いこむように花は咲きこの世のものはくらいね、ねえさん

あの朝もさみしい朝のはずだったきれいな声でヒタキが鳴いて

わたくしに姉なる人は無かりしをスープに蕪は透きとおりゆく

やわらかな人の暮らしに火を灯すすべての窓に夜がくること

カフェテラスに魚のように人はゆき風が荒らした冬も終わった

2024年4月
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