水の砂漠 森垣 岳
ラジオからある海外の小説を紹介する番組が流れていた。そのなかに「人は死ぬと天にのぼるが砂漠で死ぬと海に行くのだ」という一節があった。なるほど、砂漠と海は似ている。漠然とはるかかなたに広がっていて、生と死のにおいがする。海は水でできた砂漠であり、砂漠は砂でできた海なのだろう。
子を宿す妻の見ており無言なる水の砂漠と呼ばれし海は
カブトガニ真夏のように賑やかな腹部を見せる抜け殻を置く
雨あがり道にミミズがのたうちて乾きて屍となりて夕暮れ
進化とは螺旋形にて進むことカバンのネジを締めて思えり
トンネルと下り行く時 地の音を響かせて子は朝日を浴びる
出口かと思えば長きトンネルをくだりて行かん腸の一筋
溶岩の熱きチーズは溶けだして乾いたパンに大陸をなす
新しき命となりて生きるべしもやしを鉢に埋める休日
代表と呼ばれることの意味を問う埋めたもやしが育ちはじめぬ
落ちているマッチの箱に記された女と同じ花咲いており