泥 土 喜多 弘樹
変(を)若水(ちみづ)はいづくに湧くや手に掬ひまばゆき地球浮かばせてをり
四季のなき国へと果ててゆくと言へ想定外のまなこを閉づる
ぞろぞろと花を見むとて靖国へ。虚仮の一念もちて花咲け
わが先のいまだ見えねば銭金を惜しまず馬券買ひにゆくなり
瀬戸内のおだやかな地に住みたしと思案めぐらす芽吹けるごとく
あかあかと夕日は女体。青草にひそみて湯浴み覗きゐたりき
ひといきに言葉を砕く金槌をもたねば言葉いとしかりけむ
断念のふかき時の間くらぐらと忘却といふ春の雨ふる
蛞蝓はいづこに往かむ雨はれて夕空仰ぐわれに同朋(とも)なし
「いやな世の中」さうそれでよし草萌ゆる樹々はさやげる野には哄笑
青空に煙突伸びてゆけるなりやがて一本の葦となりたり
これからは生死(しやうじ)悩まずありたしと万年筆を夕風に当つ
金剛力われにそなはることなけむ蓮の根張れる粘き泥土
靡けなびけ鯉のぼりこそ春の魚(うを)太虚の水を欲しいまま飲め
くるしみの掌(てのひら)の瀧ほの光りおろかなひと生(よ)流しくるるも