短歌とTANKA

十字架       御厨 慶子

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    十字架      御厨慶子

オレンジの屋根の並びて今にも魔女飛んで来さうなちさき煙突

水底に倒れ込みたる白樺は眠り続けてみじろきもせず

湖の水際(みぎは)に寄り添ふつがひ鳥求愛終はれば離れてゆきぬ

廃屋の銃弾の跡 錆びた戦車 野外博物館に言葉はいらず

忘却を怖れてわざとなほさぬか銃弾の跡残る家並み

天空の城と言はれるモトプンのカフェの二階に毛布干される

風に肩震はせ踊るバレリーナコインを集むリュブリャナの夜

ブレッド湖のほとりプラムの樹の下をのぞけば羊お昼寝してる

ブレッド湖にアジアの異教徒押し寄せて鐘つくさまを牧師の見張る

祈るのも忘れつきたる鐘の音はかそけく水面に消えてゆきたり

バラ色の洗礼台には聖水のたたえられをりみどりご待ちて

朝陽浴びみどりご神の子とならむ彫られし天使のコーラスの下(もと)

みどりごの浸る聖水浴びせ給へ見えぬ十字架背負ふ我にも

我とイエスが鏡に映り十字架にともに磔(はりつけ)にされし錯覚

ロビーニの港に迫る夕闇にヘリ達白き十字架えがく

2024年3月
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