うす蒼き鰭降るやうなしづけさに硝子の向かふ往き交ふ誰か
晩夏のメロンにナイフ入るるとき運河往きたりチェーザレ・ボルジア
サルビアの花蜜吸ひし夏遠くわれ産みしひと憎む 蟻這ふを
海王星とふ紫陽花の傍へ佇めるすずしくあらぬわれ血のふくろ
不意つきて訪ふものを肯ひぬ夜を充たしくれし雛罌粟の朱
一角獣(ユニコーン)の眸に映るふらんすの野の蜜のいろ 神の皿はも
名はジャンヌ灼かるるまでを恍惚の手綱引きたり己身霧らはな
草の間に揺れてゐたりし狐の尾或いは神零したまふウヰスキー
ビル街の切崖なすを跳ぶ少女 八月痛きまでひかりのつぶて
大き硝子に映されゐたる夕映の異郷あゆみて誰にゆき逢ふ