短歌とTANKA

夕映の異郷       北原耀子

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うす蒼き鰭降るやうなしづけさに硝子の向かふ往き交ふ誰か

晩夏のメロンにナイフ入るるとき運河往きたりチェーザレ・ボルジア

サルビアの花蜜吸ひし夏遠くわれ産みしひと憎む 蟻這ふを

海王星とふ紫陽花の傍へ佇めるすずしくあらぬわれ血のふくろ

不意つきて訪ふものを肯ひぬ夜を充たしくれし雛罌粟の朱

一角獣(ユニコーン)の眸に映るふらんすの野の蜜のいろ 神の皿はも

名はジャンヌ灼かるるまでを恍惚の手綱引きたり己身霧らはな

草の間に揺れてゐたりし狐の尾或いは神零したまふウヰスキー

ビル街の切崖なすを跳ぶ少女 八月痛きまでひかりのつぶて

大き硝子に映されゐたる夕映の異郷あゆみて誰にゆき逢ふ

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