秋づゆの硝子の町を擦れ違ふ誰も外套(コート)に胸鰭しまひ
首飾りざらりと肌に海は来ぬ 恋人はとうに死んでしまつた
さびしさは銀のフォークにくる秋の エマ・ボヴァリーを運ぶ辻馬車
墓碑にきみの名たしかめし夜もわれ此の世の秋の魚を食みたり
翻るヴェネツィアびとの黒衣かな烏丸御池雨の辻ゆく
微熱もて籠もるゆふぐれ届きたるメールひとひらの湖(うみ)と想へり
ガラス壜の縁に夕光溜まりゐる一角獣も老いて棲むらむ
昼下がり銀座のカフェーに面罵されわれ在り天然色のシネマだ
天高く皿傾きて溢れいづ スワンレイクは生者らの秋
生牡蠣にレモン搾りてふふみゐる今しまらくは生者の側に