ナヅノキ 二〇一五年三月歌会 三月二十九日(日)
①春霞みかかる景色をおばちゃんはボケているとかくも嫌いて
②ロウバイは蕾のままでヒヨドリの体にいりて花も見ず 田中みや子
③忘れるは許すにあらずわがなづきわからぬふりに恕すと言へり
④行列のスイス喫茶は昭和から値段を変えぬハンバーグ出す 日比野美鈴
⑤花々の色素のつきし骨とならん君と僕とは抱き合ふ 春夜
⑥上辺のみ光にそよぐ竹林よ生まれるといふは死ぬといふこと 楠 誓英
⑦進化とは螺旋形にて進むことボルト一本外して思う
⑧テーブルに書類の塔を積み上げて鳥になるまで三月を待つ 森垣 岳
⑨青島の鬼の洗濯板わが身内(みぬち)剥がせば泥の塊のぞく
⑩天照大神(あまてらす)祓ひたまへよ昏き雲拝めど岩戸の埋もれ見えず 御厨 慶子
⑪捨てられしトラック一台遠景に海に消えたる島をたずねき
⑫金色の光のなかをすぎてゆくものありたとえば若き日の父 田中 教子
⑬細き身の青き翼に羽ばたいて地上を翔び立つ鳳凰(おほとり)か君
⑭結ぼほるる弓弦といふを名に負ひて鳳凰(おほとり)のごと君は翔ぶなり 大石真由香
⑮懐かしき影絵・幻灯・走馬燈光の帯に煌めく埃 家永 和治