ルイヴィルの六月 北原耀子
水銀の束のやうなりひとに逢ふ午後二時驟雨けぶれる町よ
ルイヴィルの六月ならば逢ひにゆく岬に佇ちてわれを待ちしひと (『グレートギャツビー』再読、村上春樹新訳)
鮎はみづの創 透ほりゆく川の裸身の繊き痛みよ
目を閉ぢて想ふ雛罌粟ギリシアの古代の野より君運びくれし
インク壜底ひに溜まる紺青をかなしめ亡父(ちち)の書斎の時間
鬼ゆりの花の真央に父坐して路地裏長屋夕焼けてゐむ
メール打つ指より生るる瑠璃ビタキその青き嘴 もう届かない
洗面器に朝の水は溢れたり手触れし君ほんとうに死者か
きみの白鳥の歌知るるなきわたくしの咽喉うるほす林檎酒は
槍、穂高、常念岳を指しくれしひととわかれてあゆみはじめつ