レリーフの鼠 北原耀子
雪の窓仄か明るき夜に開くバンクス花譜集 よろこびの茎
大天使ミカエル睦月牡丹雪眺めながらに懸垂しをり
夕闇の平戸に購ひし南蛮菓子卵のいろに神棲むならむ
嗄れ声のローレン・バコール闇に立つこゑは憶ひを濡らすさざなみ
ギムレットには早過ぎるなんて言はなかつたが止り木に待つてゐた
レリーフの鼠逃げつる春の夜のゆめのあはれや中央停車場
丸の内駅舎ドーム天井を仰げば「時」の螺旋降りてくる
ひらひらと紋白蝶(もんしろ)の飛ぶ芋坂を正岡りつの後姿(うしろで)ゆくや
瓦斯の焔(ひ)の青きゆふぐれ炙りゐる魚の身反りてゆかむたまゆら
都市地下の巨大迷路を或る夜はガーベラ紅き花もてあゆむ