短歌とTANKA

翻訳「日本の女性詩歌百年」①     翻訳:キャロル・ヘイズ + 田中教子

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短歌翻訳の新しい試みについて

 これまで、短歌の英文翻訳は一般的に5行でなされて来た。英語におけるTANKAが定型の新しいスタイルの英詩として認識されるなかで、日本語の短歌を5行で翻訳することも当然と思われて来たのである。しかしながら、日本語の短歌は必ずしも5行にわけられるものではない。この疑問は、佐藤紘彰の「短歌の英訳ーA・ウィリー再訪ー」で短歌の1行訳が試みられていることにもあきらかである。しかし、短歌の翻訳は1行がふさわしいかといえば、これもまた疑問である。たしかに日本語の表記では短歌は1行であらわされている。だが、文節的にはは必ずしも1行であるとはいえない。歌には所謂「切れ」があり、「切れ」ごとに文が形成されている。たとえば「たかひは上海に起り居たりけり鳳仙花紅く散りゐたりけり」という茂吉の歌は三句切れである。三句までは上海事変のことをいい、四句五句は鳳仙花が詠われている。このように句切れごとに意味がかわり、文脈が形成されている。この切れを利用して翻訳をおこなうことが客観的であり、かつ英語読者に原作に近いかたちでつたえられるのではないだろうか、と、オーストラリア国立大学のキャロル・ヘイズ博士と私は考えたのである。また、滋賀大学の菊地利奈先生にも多大なご協力とご指導をいただきつつ、この翻訳をすすめている。(2016年2月1日 田中教子)

 

中城ふみ子『乳房喪失』より

From “Loss of my Breasts” 

                          翻訳:キャロル・ヘイズ + 田中教子

 

出奔せし夫が住むてふ四国目とづれば不思議に美しき島よ

Shikoku, where my husband has run off to live

I close my eyes, such a strangely beautiful island

 

 

音たかく夜空に花火うち開きわれは隈なく奪われてゐる

With a loud bang, fireworks flower in the night sky

Every nook and cranny of my heart stolen away  

 

 

われに似しひとりの女不倫にて乳削ぎの刑に遭はざりしや古代

In ancient times

A woman committing adultery like me, breasts slashed in punishment, perhaps

 

 

冬の皴よせゐる海よ今少し生きて己のを無惨見むか

Ah, winter wrinkled sea

I will live a little longer watching my own misery

 

 

魚とも鳥とも乳房なき吾を冩して容赦せざる鏡か

Nippleless like the fish and the birds

The mirror shows me so unforgivingly

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