西へ東へ 御厨慶子
他人への橋かけあやまちて海峡を結ぶ吊り橋ただながめをり
竜宮を模したる門のあはひからほの見えし海は戦ひの跡
入水せし帝は竜宮見つけしか幼きみたま今も祀らる
雨上がりの御堂を訪へば伽羅色の蟷螂足を合わせて祈る
十二単かたどるみくじ娘がひけば君忘れぬとふ歌の添へらる
とこしへに念仏唱ふ空也像まなこの水晶我の目を射る
勧進僧の袖ひるがへる五条坂思はず鉢にコイン入れたり
日照雨降りもみぢ半ばに散りし葉の悔しさ滲む石段をゆく
丸窓にあふるる紅葉のたもとにはひとつところをみつめる二人
御堂にて畳のへり縫ふ男居てしろがね色の針を繰る指
伊万里の郷のトイレ借りれば陶板の姫がほほ笑む御婦人用と
窯元をあなたこなたとひやかして紅絞り入りし茶碗に惚れる
真綿色の霧わけぬつと現われし黒き塑像に首なかりけり
高原に群れるすすきを手なづけて鉄の荷車オブジェとなりぬ
をさなごをはざまに抱きて彫刻の男と女 父ははとなる