雨の雫も違ふ海へと流れをりトンネルゆくうち水が分かれて
青楓揺るる川床大宮人紙漉きしとふ水の音がす
ずぶ濡れになりて遍路が山門に頭(かうべ)たれをり菅笠脱ぎて
夏祭りに汗して西瓜引き上げし父はもう亡く古井戸枯れぬ
マンホールの蓋雨に濡れ姉さん被りの女が浮かぶ
宴果てても許されず池巡りたる電飾の船がらんどうなり
災ひに命奪われし者たちよ御廟のせせらぎ卒塔婆を浄む
十二単のをみなばかりを撮る男詠まれし歌を聞かず去りたり
隣家の屋根に居候せし朝顔を夫(つま)が払ひぬ花つけしまま
枯れてなほ姿崩れぬ紫陽花のわづか一輪死化粧する
ちさき函に互ひの煙クロスさせスーツの男ら搭乗口へ
天窓の空に迫りし黒き脚中世の城をドローン犯す