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デジタル空想植物園2「不死身の妖精」

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デジタル空想植物園2   不死身の妖精   森垣岳

 

 歴史や時代に関係なく、権力や財を手に入れた人間は持てる力を使って不老不死を叶えようとする例がいくつも知られています。中国では始皇帝が不老不死のための薬を探せた伝説がありますし、日本では人魚の肉を食べて不老不死になった(てしまった)八百比丘尼の話があります。Dr.パルナサスの鏡という映画では不死身になった老人が苦悩する姿が描かれています。不老不死は人類にとって幸福であるかというと、必ずしもそうであるとは限らないでしょう。永遠に生きるわけですから、人類が滅んでしまっても生き残ってしまいます。住むところがあるうちは耐えられるかもしれませんが、約50億年先と言われる「太陽の寿命」が尽きたとき、地球も生命の星ではなくなってしまうでしょう。永久に続く暗い荒野となった地球に苦しみながら生き残るのは苦痛そのものです。そんな悲惨な予想となる不老不死ですが、野生に生きる生物のいくつかは不老不死に近い能力を有しています。

例えば一部のクラゲは、年老いてくると「ポリプ」と呼ばれる若い細胞の塊に変形し、分裂して再び新たな人生を歩みはじめます。外敵に食べられない限り何度も若返ってリセットできるので不死身に近い状態で過ごすことができます。

さらにプラナリアという矢印の角を丸くしたような水生生物も不死身であることで有名です。このプラナリアはどんなに小さく切り刻んでも再びその切片から再生し、新たな個体となって動き出すことが知られています。

しかし、生物である以上寿命で死ぬことはなくとも様々な要因によって命を落とすことがあります。水の中に生息する以上、水質の変化にはデリケートに反応します。そのため、水が汚れてくるとたちまち姿を消してしまいます。かつて水槽で私が飼育していた時は数日のうちに消えてなくなってしまったので、水質が変わってしまうとたちまち溶けて分解されてしまうのかもしれません。

このプラナリアはなぜ切り刻まれても見事に再生するのかと言いますと、どうやら全身に「幹細胞」という特殊な細胞が散らばっているようです。幹細胞とは役割の決まっていない細胞のことで、状況に応じて様々な細胞に変化することができます。この細胞が切り刻まれたときにうまく活動して元の体に再生していこうとするようです。

さらにおもしろい事にプラナリアの再生は極性があることも知られています。元々頭があった方からは頭が再生し、尻尾があった方からは尻尾がきちんと再生するのです。

どうやらプラナリアの体内では「尻尾を作れ」と命令する物質が頭から尻尾に向かって流れており、切り刻むと尻尾の方にこの物質が蓄積するので尻尾を作るようです。逆に「頭を作れ」と命令する物質は流れていないので尻尾を作るための物質が薄くなると自動的に頭が作られるのだそうです。

プラナリアのように不老不死を獲得しても実験のために切り刻まれる人生は勘弁願いたいものです。

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