春の牢 岩尾淳子
チャドールを着せられていた少女たち小さな顔をわたしに向けて
行く春の地方選挙は終わりけりどんな絶望にも届くことなく
分からないことばかりが増えてきた世界は遠くもないのだろうな
しらじらと雨に鎖さるる春の家わたしに牢があってよかった
指先に力こめてねめりもつ烏賊からなにを引き抜いたのか
午睡から覚めれば雨のうすみどり三好達治をノートに写す
積み上げた歌集と雑誌を選り分けて春の休みがおわってしまう
人様に褒められたくて落ち込むのはいいかげんでやめようよ
あと五分、アンデルセンをよみたいな、靴に踵を押し込む我は
四月には紙切る仕事のありぬれば捨てらるる紙を惜しむ夕暮れ